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チベット紀行 3

Photo_3 617_ 617 □2006.6.17

04:00、またも事件発生。同室のAS氏が時差を直していなかったため、真夜中にけたたましく目覚まし時計が鳴ったのだ。まったく、迷惑な奴である。しかし当然、心が大らかで、慈悲深い私は何もなかったように無視して眠っているふりをした。05:00、モーニングコール。05:30,朝食。6:00,バス乗車。空港到着の後、エアバスにてチベットへ。日本からの国際便より、搭乗機が大きい。成都ーラサ間の利便さがもたらしたものであり、それほど成都とラサの行き来が頻繁に行われている証左だと、総奉行の貫田さんから聞く。

10:00、チベット西蔵自治区のゴンカル空港着。聞いていたとおり、抜けるような青空と透き通るような空気の軽さである。冬の衣服はいらんかったなぁ…と重いスーツケースを恨めしくみる。ともかく私にとって初めてのチベットである。正木先生の指示もあり、昨夜から、いただいた高度障害対策の薬・ダイヤモックスを服用しているお陰か、思ったほどの高度障害を感じない。ゴンカル空港の高度で約3600㍍というからいきなり低地から富士山山頂に着いたようなもの。空気は確かに薄い。ちょっとした階段でもハアハアする。にもかかわらず若干、頭に痛みを覚える程度で、さほどの不快感がないのは有り難い。周りの同行者を見ると結構顔色を悪くして気分のすぐれない人もいるようだ。伊藤さんも不愉快そうな顔をしていた。昨日飲み過ぎたせいかなあ。チベット滞在中の現地ガイドのテンジンさんというチベット人の方が出迎えに来てくれていた。180㎝を超える屈強な体格の人である。貫田さんも正木先生も懇意らしい。彼はかなり有名なガイドさんのようで、日本のことも詳しい。「高地ですから、慣れるまでは、なるべくゆっくり歩いて下さい。」というアドバイスに従って、行動はゆるやかにおしとやかに。確かになんだか体がふわふわしているなあ。

年代物のチャーターバスでラサに向かうが、途中、少し寄り道して、最初の訪問地コンカル・ドルジェデン寺(金剛法座寺)を参観。10:40着。ここは正木先生旧知の寺で、今はガラス張りで覆われている堂内の壁画が、まだ保護工事を施される前に、奇跡的に取材する機会を得たというチベット仏教新サキャ派の寺院である(後年このときの撮影記録は立川武蔵・正木晃共著『チベット密教の神秘』<学研>として出版されている)。私にとってはこのコンカル・ドルジェデン寺が初めてのチベット仏教との遭遇地となった。本堂脇には噂に聞いたマニ車が設置され、参詣者が回している。私も周りしてみる。このマニ車、必ず右周りに回さないといけない。一回りさせるごとに仏教経典の一切経一読と同様の功徳があるという。関西では四天王寺の極楽門前にあるマニ車が有名であるが、他ではあまり見かけない。チベット寺院ではどの寺でも設置されていた。本堂内に入ると僧たちがたくさん集っていた。説法会の最中である。ひんやりとした空気、ローソクだけのほの暗いあかりの中で経典を読誦する30名あまりの僧達を目の前にして、いささかその雰囲気に飲み込まれたような思いであった。

本堂をはじめ二層三層と続く堂内壁画は、チベット仏画史上、最大級の画家といわれるキェンツェの作とみなされている。その素晴らしい美しさは遠く日本から訪ねるに足る価値と感動を与えてくれた。但し(このあとのどのお寺でもおなじなのだが)、堂内撮影にはその都度、いくばくかの寄進を強要され、その額はお寺によって差異はあるものの、チベット滞在中、合計するとそうとうの金額を支払うことになる。もちろん日本じゃ、堂内は撮影厳禁で少々お金を払っても、そう簡単には撮影させてもらえないのだから、チベット寺院の方が良心的というなら良心的といえるかもしれない。最上層の階へ上り、全員で勤行をする。あらかじめ用意した錫杖を振って、私がお導師を勤めさせて頂いた。今回は全日程を通してチベット寺院巡礼の旅であり、単なる参観旅行ではない、という私なりの意義を込めての勤行であったが、正木先生をはじめ他の参加者にも大変喜んでもらえたようだ。チベット僧の唱えるお経に慣れ親しんだチベットの諸尊には見知らぬ日本の修験僧のお経など、とまどうばかりであったかもしれないが、諸仏供養の心は納受して頂けたに違いない。

12:10、再びバスへ。一路ラサを目指す。青い空と透き通るような大気に覆われたチベットの大地は予想どおりに雄大にして爽やかである。梅雨の日本を出発し、湿度の高い成都から入国したせいもあってか、素肌に気持ちいい快適な気候であり、高度障害もさほど私は感じない。13:00、道路の脇にそびえるネタンの摩崖大仏前を通る。バスの中から大仏を拝む。そして13:45、ラサ市に到着し、ラサでの宿泊所・ヒマラヤ飯店に入る。

チベットは人口密度の少ない国であるから、さすがに街と街の間にはあまり人家は見かけなかったが、ラサに近づくに従って建物が増えてきた。しかしながら、世界の秘境といわれたチベットである、さぞかし秘境っぽい佇まいがあるに違いないと期待していたが、案に反して、そういう私たちが想像するチベットらしい風景はラサ市内にはほとんど残っていなかった。小中国って感じで、看板に毒々しく描かれた簡体文字の中国語とともに併記されるチベット文字にわずかなチベット国の匂いを感じた程度。街全体の作りや雰囲気は完全に中国ナイズされている。「これでもう5,6年すればもっともっと中国化してチベットらしいものはいよいよ損なわれてしまいますから、是非今のうちに見ておくべきなのです。」とは正木先生の言である。

14:30,ホテルで昼食。予想に反して料理は美味しい。「高地にくると、多くの人がとてもハイな気分になるので十分摂生して下さい」と何度もいわれたが、ハイになっているせいなのか、食事が結構進む。自制をしなくては…。そういえばチベットの達人・正木先生自身は食事の量が極端に少ない。それが秘訣なのだろう。伊藤さんはどうも高度障害にかかっていて顔色も悪いが、それでも結構食べていた。

ともかくチベット旅行は高山順応がなによりも大切である。今日明日は体を空気の薄い高地に慣れさせることが一番であり、スケジュールもゆったりと組まれている。17:00、夜の食事の前に、腹ごなしも兼ねて、八角街にある正木先生御用達というタンカ画専門店を訪ねる。あいにく先生のご友人の画師は留守であったが、ここのタンカは先生が褒めちぎるだけの価値がある作品ばかりで、素晴らしいものであった。その分、他のお店のタンカと比べると単価(たんか)が高いなあ…とオヤジギャグを一人でつぶやいて、誰にも言わずに苦笑した。高度障害のハイテンションのせいなのかもしれない。土産は買うまいって心に決めてチベット入りしたが、初日にしてその禁を破り、早速購入してしまった。またまた土産物ツアーになってしまいそうである。私は海外旅行に行くと、ついついいろんなものを買ってしまう癖がある。帰国後は、ほとんど見向きもしないようなものばかりを買うのだが、何度行ってもこの癖は治らない。しかしここのタンカ画は本当に素晴らしかった。

20:00,ホテル内のレストランで食事。先生、ここの食事も美味しいよ。ダイエット出来ないなあ…。21:00、部屋に戻ってテレビをつけると辺境の地ラサというのに、成都同様、ワールドカップの生中継をやっていた。もうラサは辺境ではないのだ。しかし、諦めていた、明日の日本VSクロアチア戦も観戦することが出来そうである。有り難いけど、日常を離れて秘境の旅に出たつもりでいただけになんか複雑。

23:00、AS氏の目覚まし時計の時間設定を確認して就寝。また夜中にたたき起こされてはたまらないから…。明日からいよいよラサ市内の参観である。

「高山病対策薬・ダイアモックスについて」

文中、正木先生から勧められた高山病対策薬ダイアモックスの服用について記述しているが、このダイヤモックスは、本来はてんかんやメニエール病の特効薬として開発された薬剤(炭酸脱水酵素抑制剤・アセタゾラ)で、偶然の機会に、高山病にも非常によく効くことがわかり、欧米で普及したという妙薬である。ただし、日本では、薬事法の関係から、一般の薬局などでは入手不能で、医者の処方箋がいる。副作用は基本的には、服用法を誤らないかぎり、ほとんどないといわれているが、ただし、フェノベール、アレピアチンとは併用してはいけない。

用法はまず、チベットに入る前日の夜(就寝の前に)、半錠を服用する。次にチベットのコンカル空港に到着する30分前に、機内で残りの半錠を水とともに服用。そして最初の2日間は、朝・昼・晩の3回、半錠ずつ服用し、高度順応がうまくいって体調がよければ、服用は止める。また体調に何らかの異常を感じた場合は、ただちに服用する。バッファリンのような薬と併用しても、副作用はないといわれている。ただ服用すると、大量の尿が、頻繁に出るので、つねに水分を摂取し、排泄しつづけることが肝心で、これによって高地馴化が飛躍的に進むという。

今回、正木先生と貫田さん以外はチベット初体験者であり、根っから素直な私のように、言いつけ通りに薬の服用をした人は概ね高度障害が少なかった。それに反して、言いつけを無視して薬の服用を怠った人ほど、高山病に苦しむことになった。またこのことが後日の大事件に繋がる要因にもなった。

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