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「書が日本を救う」

「書が日本を救う」と題した拙文を、4年ほど前に、『書道ジャーナル』(平成17年5月号)に依頼されて書いたことがある。今日、パソコンを整理していてたまたま見つけたので、再掲載することにした。

ご笑覧あれ!

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「書が日本を救う」

僧侶は筆字が下手だとなにかと肩身が狭い。「お坊さんは字が上手だ」というのが世間の相場らしいからである。

実際、昔から僧侶は筆が立った。また今でもふつうの人より、はるかに僧侶の方が、塔婆だとか祈願札とか筆を使う機会は多いし、筆達者な僧侶もたくさんいる。しかし、下手な字の自分を弁護するわけではないが、最近は筆の立たない僧侶が増えているのも事実である。

あるお檀家が檀那寺の若住職に「命日の塔婆を書いてください」とお願いにいったところ、「今日は塔婆書きのパソコンソフトが壊れているから、出来ません」といって断られたという、こんな嘘のような本当の話があるくらいだから、今時の僧侶がいかに筆字が書けなくなっているか、状態が知れよう。かくいう私も人様にとやかく言えない悪筆であるが、その私の目から見ても「よくまあ、こんな字で塔婆を書くなぁ」とヘンな感心をしてしまう方も、僧侶の中にはいらっしゃるのである。

無論、字の上手下手で僧侶の値打ちが決まるわけではない。が、そのことを含めていま、僧侶の資質の低下ということが指摘されている。伝統仏教教団ではこれを切実な問題と受け止め、いろんな取り組みを始めている。当寺の縁故宗派である延暦寺では数年前から「天台宗書道連盟」という新たな団体を発足させて、僧侶や寺族の書道研鑽に努めている。

金峯山寺でも何人かの学僧を預かっているが、彼らに教える教科の中で、声明や漢文学、仏教学などと並んで、梵習字や書道は必須科目である。しかし、入山してくる学僧達の筆字の下手さ加減は特筆もので(当寺だけではないと思うが)一年や二年では上達してくれそうにない。つくづく小さい頃からの教育がいかに大切かと思わずにいられないのである。

これは今、日本で起こっているゆゆしき事態と無関係ではない、と私は思っている。明治の近代化以降、わが国は日本古来の伝統的なものを捨て続けてきた。さらに第二次世界大戦以後はその傾向に拍車がかかり、アメリカ文化の模倣が進み、日本人の伝統文化の伝承は壊され続けてきたのである。必然的に伝統文化の継承力は著しく低下し、もはや危険水域に達したかの観がある。

その端的な表れのひとつが僧侶の筆字の実力低下である、と思うのである。

本稿は書道ジャーナルという雑誌で「書のいまを問う」というテーマについて書いている。これを私流に解釈すると、書とは書道であり、そのいまを問うとは、筆書を通じて現代を語るということではないかと思う。

日本人はとかく「道」を極めたがる民族のようだ。華道、剣道、柔道、芸道などなど……私は修験道の僧侶であるが…。

ここでいう「道」は、書なら書、茶なら茶を通してその道を究め、自分を高め、日本人的聖域を目指す、ということだろう。言葉を換えれば「道」を究めるとは「神人合一」の世界にまで、書なり茶なり剣なりを通じて至ることを目指すのであろう。

そういう意味で、名僧や高僧の書は、その字の巧拙を超えて、書道の世界で重きに置かれるところがあるのではないかと思う。揮毫した僧の境地が、その文字に如実に表れるからである。優れた境地の人の文字は、心に響くものである。弘法大師空海はいうまでもなく、江戸期の高僧慈雲尊者や昭和の山田無文老師などの書は、いつまでも見ていて飽きない。そして見るたびにほれぼれする。

僧侶の筆字が下手になったことは、日本文化の危機を表しているということを、ここまで指摘してきた。しかし、裏を返せば、日本文化の復権の手がかりも筆字にあるといえないだろうか。筆字の上達を図ることは日本文化の復権を図ることでもあるとすれば、書のいまはきわめて重要な課題をになっているといえるのではないだろうか。

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まあ悪筆で有名な私が偉そうに書ける話ではないが、なかなかよいことを書いているように思う。けど・・・。

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コメント

吉野山人様 実は私 平成6年4月に、真言宗大本山当山派鳳閣寺より得度を受けています。昨年大峰奥駈けに行きたくて、涌泉寺や三宝院さんに申し込んで、断れて困っている時、インターネットで金峰山寺のホームページに出会いお世話になりました
これも、深いご縁だと感謝しています。
ご縁のある限りお世話に成りたいと思っています。先日も四国歩き遍路より帰って来ました。そんな私ですが、今後ともよろしくお願いします。4月の本山奉仕も前向きに考えていますのでもう少し待って下さい。宜しくお願いいたします。

字は確かに美しいに限ります。
私も母から言われ練習していますが・・・
簡単に上達する方法がないかな~と思いながら苦心しています。

○博治さん。お待ちしています。このブログで常連さんになっていただいている優婆塞BBさんもご参加いただくことになっていて、食説のお弟子さん以外もたくさんおいでになりますので、10数名参加予定です。

○さとさん。はじめました・・・。私も練習もしないのに、上手になれないことをうらむ日々です。練習が必要ですよね。。

〈一筆入魂〉ですよー!
空海さんの書で人の一画目のてっぺん
筆を下ろした部分、よく見たら筆の付け根部分の痕みたいなくぼみがありました!
…以前、高野山で拝見させていただいたんですが(笑)
字を書くのに平安の三筆とうたわれた偉いお坊さんが
こんなに力入れていらっしゃるんです!
やっぱり、〈一筆入魂!〉ですね~!?(*^_^*)

ちなみに、その 書 ですが、
「人の短を道う無かれ。己の長を説くこと無かれ。(以下省略·笑)」
だそうです。
深いですね~!?〈書〉って。(^_^;)

あ、忘れてました!
Xday(笑)よろしくお願いいたします!(^人^)
もし、こちらご覧になってる山人様のお弟子さん等 関係者の方々。
慣れない修行ですので、お邪魔しに行くような感じなりそうですが、
どうぞよろしくお願いいたします!(^人^)

山人様、こんばんは。

書のお話を顔を赤くしながら拝読しました。

私は職場の3悪筆と言われる程字が下手なのです。

どこかで直したいです。


ところで最近、神仏霊場の神社の御朱印の字が上手になってきてくる気がします。

神社でも書道の講習会があったのですかね?


神社も積極的に神仏霊場の看板を立てています。

有り難いです。


もう一度ところで、新潮社から御朱印入門という本が出版されています。

新宿の紀伊国屋書店では書道のコーナーに置かれていました。

ここでは売れないから仏教書コーナーに置いたほうが売れますよと指導しました。

数日後、ちゃんと仏教書のコーナーにありました。

平積の本の冊数も減っていました!

巻末に神仏霊場一覧も載っていて、とても役にたつ本です。

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