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「鬼」

大峯には鬼がいた。一千年をこえて鬼たちは大峯の山中深く住み、その末裔が今も我々大峯行者の手助けをしてくれている。…前鬼山小仲坊の住職五鬼助家の話である。

鬼は役行者に付き従った夫婦の末裔という。ご存じの、生駒山中で役行者に折伏され弟子となった前鬼後鬼の子孫である。現当代さんは第六十一世。日本の家系では天皇家が圧倒的に古いが、六十一世となると、日本でも指折りの由緒正しい名家である。なにが凄いかというと、この鬼の子孫たちは一千三百年前の役行者の遺言によって大峯の山奥に住み着き、未だにその言いつけを守り続けているというのだ。

役行者は大宝元年六月七日、箕面天上ヶ岳より、母を鉄鉢に乗せ、唐の国へ昇天されたと伝えられている。このとき、侍者としてずっとそばに寄り添った前鬼後鬼は、自分たちも是非一緒にお供したいと申し出る。しかし役行者はそれを退け「おまえたちは大峯山中に住んで、これ以後、大峯行者の世話をしなさい」と遺言されたというのだ。この言葉に従って、鬼の夫婦は前鬼山に移り住んだ。夫婦には五人の子どもがいたが、やがてそれぞれに五鬼継、五鬼熊、五鬼上、五鬼助、五鬼童の五家となって、行者坊、森本坊、中之坊、小仲坊、不動坊の五坊を営み、大峯修行者が集う宿坊として明治初期まで続いたのであった。

修験道は明治の神仏分離・修験道廃止令によって解体される時期があり、前鬼山の五坊も衰退の一途を遂げるが、今もなお、小仲坊一宇だけは存続し、われわれ大峯行者を迎え入れてくれている。ここがなければ我々の奥駈修行はいよいよ難儀をすることになるだろう。

この八月にも奥駈修行で小仲坊にお世話になった。鬼の末裔というが、この鬼はいわゆる「邪鬼」ではなく、山中生活を主とした山人たちのことだろう。当代さんはとても気の良いご夫婦で行くたびに私は歓待を受け、親しくしていただいている。まさに今に生きる役行者伝説を体現するご夫婦なのだ。鬼というより、仏の末裔かと思うような優しい容貌である。今年もその柔和で元気なお顔を拝し、役行者とご夫婦に深く感謝する前鬼山の夜であった。

****************

恒例の今月の早出しです。来月号の当山時報に書いた文章です。30分ほどで書いた走り書きなので、あいかわらず杜撰ですが、まあ、ご笑覧にあずかれれば幸いです。。
  

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コメント

ゴキスケさんじゃなくて、
ゴキジョさんなのだそうですね~?(^^ゞ

以前、TVで拝見しました♪
お師匠様のお言い付けを今もなお守り続けて千年以上!!
だなんて、こんな律儀な人 めったにいらっしゃいませんよねぇ!?
営利目的ではなく、
千年以上前からの伝統をそのまま残して…なんて
なかなか出来ないです!
かなりご苦労があると思いますが、
たまに訪れるクタクタの行者さん達(笑)には
大事なご先祖様のお師匠様のお弟子さん!として
接して下さっていらっしゃるんでしょうねぇ!?(*^_^*)

いいお話をありがとうございました!!(^人^)

BBさん。ども。。

五鬼助…ごきじょさんです。

鬼はこれからブレークしますよ。きっと!

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