「ア・センスオブホーム」金峯山寺奉納上映会のご挨拶
「ア・センスオブホーム」金峯山寺奉納上映会のご挨拶
今、日本は大変なことになっています。
あの東日本大震災の想像を絶する大災害から半年。そして西日本一帯を襲った先日の豪雨。
奈良県南部や熊野地域はいまだ多くの方々が危険にさらされています。
半年前、連日映し出された大津波の映像と福島原発の惨状、そして数日前の集中豪雨のありさまを前に、私たちは立ち尽くすしかありませんでした。かけがえのない、私たちの美しい日本の国土が、今まさに大きな危機に瀕している、そんな気がしてなりません。
ここ蔵王堂はご開祖役行者開闢以来、千三百年にわたってつづく祈りの道場です。蔵王堂に祀られる蔵王権現は、国家の災難を封じ、人々の生活を守る霊顕第一のご本尊で、その左足は、大地の振動を押さえ、地下の悪魔を打ち破る力を表しておられます。その権現様に、私たちは大震災の翌日から、梵鐘を打ち鳴らし、被災者の平安と亡くなった方への鎮魂の祈りを捧げるとともに、日本全体が不安におののく心の恐れを取り除くため、毎日毎日地震の起きた時刻・午後2時46分の祈りを続けています。今、このときに蔵王権現さまに祈らなくて、いつ祈るのかという思いからであります。
今日9月11日は東日本大震災からちょうど半年を迎えるだけではなく、あの忌まわしい「9.11アメリカ同時多発テロ」からも10年の節目を迎えました。大きな意味を持つ今日この日、千年の祈りの場であるここ蔵王堂に於いて、私たちにとっての家族とは、故郷とは、祖国とは何かをテーマとする「ア・センスオブ・ホーム」の世界最初の上映会が奉納されようとしています。
地震津波の自然大災害や、原発事故のような人災、テロや戦火による被災によって、その都度、世界中で、人間にとってかけがえのないはずの生活や故郷や国が失われてきました。その、立ち尽くすしかないような現実を前に、私は蔵王権現さまへの祈りを持つしかありませんでした。それは私たちを育んできた大地や歴史・風土。祖国への感謝と、災いの消滅を願う祈りでした。そして、今回の映画制作企画の主宰者である河瀬直美監督にとっては、この作品のテーマとなった「センスオブホーム」…つまり「ホーム」という感覚だったのだと思います。それは、宗教と芸術が別々の方法で互いに共有した、ある種の危機感だったとも感じました。その出会いが本日の金峯山寺上映会に繋がりました。
今、大震災から半年を経て、「あれはなかったことにしよう」というような、日本の風潮を感じます。東北で苦しむ被災者のことも、原発事故でどうにもならない事態に陥っている福島のことも、まるでよその国の出来事のように、どこかで忘れたい、豊かな元の生活を早く取り戻したいという世の中の流れに、私は大変な憂いを感じています。まだわからないのか、と大自然が、権現様が、言っておられるような気がします。揺るぎのやまない国土、うち続くさまざまな災害はそのお叫びのように感じてなりません。
9.11以降世界は変わりました。そして3.11以降、日本は変わらなければいけないと思います。なかったことにしてはいけない。その感覚を今回の作品映像が、今に生きる我々にきっと伝えていただけると思っております。そして、後世の人々にも伝えなくてはならないものだと感じています。
地震による福島原発の事故や、うち続く災害でわかったことがあります。それは効率優先という名のもとの経済発展がもたらした、豊かさが持つ危さであり、大地への祈りと感謝を忘れた行為の愚かさでした。
私たちは大地とホームを今こそ、取り戻す、取り戻す方向に向かわねばならないでしょう。今夜の映画祭を、蔵王権現様とともに鑑賞することで、なにかが生まれることを期待してやみません。
最後に、今回の奉納上映会開催に当たり、意を尽くして奔走された「なら国際映画祭実行委員会」のスタッフをはじめ、遠く日本にお出ましをいただいたビクトル・エリセ夫妻ほか多数の製作監督、多方面にわたり惜しまぬ協力をいただいた地元吉野山や関係各位のみなさまに心より御礼を申し上げるものであります。合掌
金峯山寺執行長 田中利典
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昨日読むのを没にされた?今日のご挨拶です。悔しいので?、公表します(笑)。・・・・っていうか、ライブ前の盛り上がりを作るには、ちょっと堅いよね。
さてさて10時間後はなにを話そうかなあ。
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ご無沙汰しております。スレ違いで申し訳ありません。
この度の台風により蔵王堂の被害が甚大なものでなく安心しました。
平成40年度に蔵王堂の檜皮葺きの修理にかかる由、私も早々に掛かれねばならないのではと常々感じてはおりましたが、檜皮の確保、葺き替え職人さんの不足など色々な諸問題が山積され大変とは存じますが心身に支障のないようお祈り申し上げます。
伊勢神宮さんも御料林では2割しか賄えず殆んどを外国から輸入したものと受けたまわっております。
莫大な入費がかかること心配しております。
吉野でも小型の蔵王堂と思えた喜蔵院さんの本堂が瓦葺きになったのは大変残念な想いがありました。
それにつき、一部マスコミに蔵王権現さんの御開帳を来春より新緑期に数年間行われるとのことですが、秘仏は秘仏として易々と御開帳を行うべきではないと思います。
権現さんや行者さんには日々の生活態度、信仰や修行の積み重ねにより感得されるものと思いますが如何でしょうか。
役行者さんの御遠忌より度々御開帳され信仰者にとっては有難くも、一般観光者には美術品でしかないとあっては複雑な想いを抱くのは私だけでしょうか。
先々代管長の時代、戦後すぐに堂舎の危害が迫ったとき、権現さんの霊示により南朝の英霊供養をすることに危機を免れたことを思えば「御開帳」だけに頼るのは如何なものでしょうか。
醍醐寺さんのように境内で拝観料を支払っていただくような事にして、現在の蔵王堂拝観料400円を
境内に入るだけで200円、100円と広く安く支払っていただくようなことはできないでしょうか。
投稿: 修験道の一信者 | 2011年9月11日 (日) 20時55分
『アセンスオブホーム」金峯山寺奉納上映会、素晴らしかったです。
夕方から吹き始めた風、虫の鳴き声、空に浮かんだ月、自然の力に見守られ、
上映会最後の田中利典様のご挨拶、心に響きました。あたたかなお言葉でした。
今朝、このブログを読んでおりましたので心配でしかたありませんでした。
すると、なんと有難いことに、奈良県地域振興部長の田中さんとお話していると、
利典様がいらしてくださり気持ちを伝えさせていただけました。
利典様のご挨拶文の真摯さ、想いを、本番でお話してくださること祈っておりました。
素晴らしいお言葉と、お人柄を拝見できたこと光栄でした。
ありがとうございました。
投稿: 滝北由子 | 2011年9月12日 (月) 00時16分
修験道の一信者さん。
①蔵王堂境内は明治以降、三分の1ちかくは神社地なのですよ。だから大人の事情もあって、境内での入山料はとれません。
②入山料のことはともかく、それよりも、蔵王権現信仰は明治の修験道廃止・神仏分離によって、世の中から忘れ去られつつありました。山形の蔵王や京都の嵐山が、蔵王権現の勧請地が元だと誰が知っているでしょうか???
天変地異がうち続き、日本の心が極めて危機的状況に陥っている今日、明治以来140年を経て、ようやく権現信仰が復活するべき時を迎えています。権現とは仮に現れたもの…つまり秘仏では論理にあいません。しかも蔵王堂のご本尊は巨大なお姿。人に拝んでいただいてこそ、権現信仰が高まります。
商売で開ける・・・とような次元の低い論議は暇人に任せておいて、急をつげる国難に、立ち向かうべきときだからこそ、権現様のご開帳は意味があると思っています。
私が執行長である意味も、そこにあるんだと、今は自覚をしています。
投稿: 吉野山人 | 2011年9月21日 (水) 22時46分
滝北さん。亀レスになっています。すいません。ここ10日、公私ともに多忙を極め、寝る間も惜しい日々で、なかなかブログまでは手が回りませんでした。
来ていただいてありがとうございます。
あの上映会の集大成は、18日の河瀬監督との、なら国際映画祭でのトークショーで完成をさせました。またいづれその件は書きたいと思います。
まずは御礼です。
投稿: 吉野山人 | 2011年9月21日 (水) 22時49分