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昨日、中秋の名月で、3年前の「ア・センス・オブ・ホーム・フィルムズ」の上映会のことを思い出して、アップしましたが、そのときの、ご挨拶を掲載します。
河瀨監督から、挨拶直前に、「原稿を見ないで、りてんさん自身の、自分の言葉で話してほしい」と急に言われ、大急ぎで、予定原稿を丸暗記したのを思い出します。結構長い原稿だったので、しんどかったなあ。
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「なかったことにしてはいけない!」
今宵はようこそ「ア・センスオブ・ホーム・フィルムズ」金峯山寺奉納上映会にご上山いただきました。上映会を前に、ひとこと、ご挨拶申し上げます。
今、日本は大変なことになっています。あの東日本大震災の想像を絶する大災害から半年。そして西日本一帯を襲った先日の豪雨。奈良県南部や熊野地域はいまだ多くの方々が危険にさらされています。
半年前、連日映し出された大津波の映像と福島原発の惨状、そして数日前の集中豪雨のありさまを前に、私たちは立ち尽くすしかありませんでした。かけがえのない、私たちの美しい日本の国土が、今まさに大きな危機に瀕している、そんな気がしてなりません。
ここ蔵王堂はご開祖役行者開闢以来、千三百年にわたって祈りが続けられてきた修験道の根本道場です。蔵王堂に祀られる蔵王権現は、国家の災難を封じ、人々の生活を守る霊顕第一のご本尊で、その左足は、大地の振動を押さえ、地下の悪魔を打ち破る力を表しておられます。その権現様に、私たちは大震災の翌日から、梵鐘を打ち鳴らし、被災者の平安と亡くなった方への鎮魂の祈りを捧げるとともに、日本全体が不安におののく心の恐れを取り除くため、毎日毎日、地震の起きたちょうどその時刻・午後二時四十六分の祈りを続けてきました。「今、このときに蔵王権現さまに祈らなくて、いつ祈るのか!」という思いからであります。
今日9月11日は、東日本大震災からちょうど半年を迎えるだけではなく、あの忌まわしい「9.11アメリカ同時多発テロ」からも10年の節目を迎えました。大きな意味を持つ今日この日、千年の祈りの場であるここ蔵王堂に於いて、私たちにとっての家族とは、故郷とは、祖国とは何かをテーマとする「ア・センスオブ・ホーム」の世界最初の上映会が奉納されようとしています。
地震津波の自然大災害や、原発事故のような人災、あるいはテロや戦火といった被災によって、その都度、世界中で、人間にとってかけがえのないはずの生活や故郷や国が失われてきました。その、立ち尽くすしかないような現実を前に、私は蔵王権現さまへの祈りを持つしかありませんでした。それは私たちを育んできた大地や歴史・風土、祖国への感謝と、災いの消滅を願う祈りでした。
映像作家の河瀬直美監督は、東京で大震災に遭遇されました。揺れるビルの中で感じたことは、「息子のそばに帰りたい、故郷の奈良に帰りたい」という思いだったそうです。身に迫る危機を前にして、人は誰でも、愛する人に会いたい、故郷に帰りたいと思う。それは世界中のだれもがどこであっても、同じように感じる感覚だと思います。河瀬監督は、東日本大震災に対し自分に何が出来るかを考え、その地震に遭ったときの思いをそのまま形にしようと思われました。そして世界中の映像作家に呼びかけて、今回の「ア・センスオブホーム・フィルムズ」…ホームという感覚…つまり家、故郷、国土への思いをテーマとした映画が紡がれることになりました。
私たち金峯山寺では大震災に対し、家を守る祈りを届けたいと思い、芸術家は家への思いを形にしたいと思いました。それは、宗教と芸術が別々の方法で互いに共有した、ホームすなわち家や国土へのある種の危機感だったのです。その二つの出会いが本日の上映会に繋がりました。
今、大震災から半年を経て、「あれはなかったことにしよう」というような、日本の風潮を感じます。東北で苦しむ被災者のことも、原発事故でどうにもならない事態に陥っている福島のことも、まるでよその国の出来事のように、どこかで忘れたい、豊かな元の生活を早く取り戻したいという世の中の流れに、私は大変な憂いを感じています。まだわからないのか!、と大自然が、権現様が、言っておられるような気がします。揺るぎのやまない国土、うち続くさまざまな災害はその叫びのように感じてなりません。
9.11以降世界は変わりました。そして3.11以降、日本は変わらなければいけないと思います。なかったことにしてはいけない。その感覚を今回の作品映像が、今に生きる我々にきっと伝えていただけると思っております。そして、後世の人々にも伝えなくてはならないものだと感じています。
地震による福島原発の事故や、うち続く災害でわかったことがあります。それは効率優先という名のもとの経済発展がもたらした、豊かさが持つ危さであり、自然への畏敬や大地への祈りと感謝を忘れた行為の愚かさでした。
私たちは大地とホームを今こそ、取り戻す、取り戻す方向に向かわねばならないでしょう。今夜の映画祭を、蔵王権現様とともに鑑賞することで、なにかが生まれることを期待してやみません。
最後に、今回の奉納上映会開催に当たり、意を尽くして奔走された「なら国際映画祭実行委員会」のスタッフをはじめ、遠く日本にお出ましをいただいたビクトル・エリセ夫妻ほか多数の製作監督、多方面にわたり惜しまぬ協力をいただいた地元吉野山や関係各位のみなさまに心より御礼を申し上げるものであります。 合掌
ー「 『ア・センスオブ・ホーム・フィルムズ』金峯山寺奉納上映会挨拶 」より
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3年前の原稿ですが、いま読んでも、あまり古さを感じない気がします。先日の大雨で、自宅の一部が被災しただけに、よけい自然の猛威に対する畏怖を再認識しています。
それからわずか10数分で、これ、全部覚えた集中力はわれながら、感心感心・・・。
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