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「人生あおによし:最終回」

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「人生あおによし:最終回」
 ~田中利典著述集271122

⑳修験道ルネサンス

暑ければ冷房、寒ければ暖房、移動は車や飛行機で、電子レンジに冷蔵庫……便利なもの、体が楽をできるものばかりが増えました。高度な物質文明社会の発展は肉体が楽することばかりを優先する結果、主であるべき精神が肉体に隷属する社会を現出させています。肉体の楽を優先する社会は心が置き去りにされる社会でもあります。そしてついには魂をもって生きているという現実感さえ喪失させてしまいます。

山に入って過酷な日々を行ずると、日常生活が怠惰であればあるほど、肉体の痛みや苦しみを伴います。峻厳な山や谷を駆け抜けるとき、肉体と心が対峙して葛藤する。それが高まっていると、自分の存在を超えた神仏や曼荼羅の世界が目の前に出現します。そこで初めて、人間の命のありがたさやその肯定が始まるのです。

大峯奥駈への参加希望者の多くは、日常からの現実逃避ではなく、息苦しい現代社会の中で自分を前向きに変えたい、打開したいという気持ちをもっての参加であります。「心の時代」と言われて久しい中で、私はここ10年にわたり、「修験道ルネサンス」を提唱してきました。それを支援していただく動きも沢山出てきて、まさに同時性をもって、ポスト近代への、生命と魂の反撃が始まったのだと、私は感じています。

修験道の賞味期限はまだまだ切れていません。物質文明社会が行き詰まり、自然が猛威を振るう今の時代だからこそ、その精神が求められていると私は確信するのです。

ー本稿は平成27年11月9日から29日まで、朝日新聞奈良総局の「人生あおによし」で連載されたものを加筆転載致しました。

*************

「長い連載の終わりに当たって・・・」

20回にわたる連載が終わりました。ながながとお付き合いをいただき、本当にありがとうございました。またこの企画を編集いただいた古澤記者には改めて御礼を申し上げたいと思います。

連載16回目のところで、述懐していますが、この連載は金峯山寺での今までの総仕上げ的な意味を持つモノとなりました。実は不思議なことに、この「あおによし」の連載だけでなく、今年3月末の退職直前に、更に二つの、総仕上げ的な自分史を総括する企画がありました。

ひとつは退職の3日前、3月29日(日)に奈良県立図書情報館で開催された講座・図書館劇場Ⅸ「奈良・大和の群像」の最終回で、「役行者という人」と表題で講演させていただいたのですが、なんと、この講演に併せて、図書館劇場Ⅸの千秋楽を記念するイベントとして『利典さんと吉野――田中利典著作パネル展』が3月10日から講座開催日の29日まで19日間にわたり、図書館内で催されたのでした。生きてる人の著作展は初めてですと、担当の方からお話をお聞きしましたが、まさに私のこれまでの活動を総括するようなパネル展示でした。

それからもうひとつは、NHKEテレの看板番組のひとつ「こころの時代」に出演したことです。この番組、じつは最初、1月末に出演依頼がありました。ただ、総長職の退職が決定していたので、やんわりとお断りをしました。しかし、総長としての私ではなく、田中利典個人の取材したいからというデレクターの言があり、最終的には取材を受けることになって、3月下旬の引っ越し準備の最中に、取材をしていただきました。

放映は辞めた後の、4月26日(日)と5月2日(土)。「こころの時代~宗教・人生~『花に祈る 山に祈る』」と題して全国放送がなされたのでした。

放送後、すぐに全国から、たくさんの反響をいただきました。まさにまさに、金峯山寺総長時代の総まとめを公共放送を通じて、行うことが出来たのでした。「よう頑張ってきたな・・・」という、役行者さま、蔵王権現さまからのご褒美のような出来事でした。

自坊に帰って、ようやく、今の生活にも馴染んできましたが、新しい企画や事業もいただき、後ろを振り返る暇もない毎日なだけに、この「あおによし」の連載や「こころの時代」の放送は貴重なものとなっています。

明日はこの5月に立ち上げた一般社団法人自然環境文化推進機構の第一回フォーラム「千年のときを超えて世界遺産の地で明日の環境を考える」が開催され、理事の一人として、参加します。私にとってはこれも「修験道ルネッサンス」の活動のひとつでなるでしょう。

フォーラムは以下、参照。→ http://opnec.jp/forum.html

金峯山寺は長臈職として、これからも現体制をサイドから支えていくことになりますが、私が提唱する「修験道ルネッサンス」はまた新たな展開に入ったように思います。今後ともよろしくお願い致します。

*写真は私が出演したNHKEテレ「こころの時代~花に祈る 山に祈る」の冒頭映像。

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コメント

自分の存在を超えた神仏や曼荼羅・・・・

私が神様に興味を持ち出したのは伊吹山です。
生まれて始めてのナイトハイクで夜通し歩いて
頂上で朝日を浴びたら
神様はいるんだなぁという感じになりました。

曼荼羅の世界も絵としてしかまだわからないので
また勉強してみます♪^^。

りてんさん本当にありがとうございました。
今まで知らなかった、気づかなかった、たくさんの大切なことがありました。
日本は、自然の脅威も恵みも多いですし、今は生活スタイルも変わってきたし、心身のバランスを崩してしまう人はたくさん…
修験道の可能性は、計り知れないですね。

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