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「夫婦の情景(2)」

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「夫婦の情景(2)」
 ~田中利典著述集271221

昨日の続きです。

****************

(2)

京都・綾部に生まれた夫が奥駆修行に初めて参加したのは5歳のとき。山伏の父親に連れていかれた。

◆女人禁制
夫「在家でありながら修行するのが山伏の本分。親父は国鉄に勤めながら修行していました。綾部はもともと行者信仰が厚いところで。昔はもっと厳格で、家族のものも精進していました。親父は、着々と私がこの道を歩むようにしていったのだと思います」

妻「私も行きたいなと思いますよ。ひざも悪いし、若いうちに行きたいなという気持ちはあります。小学校の林間学校でも、大峯山に登ったのは男子だけでした。女も入らせてくださいと毎年訴えにこられる人の意見も同姓としてわかる。女人禁制を守っている人たちの意見もわかる」

夫「女人禁制によって大峯山の非日常性、聖地性が高められてきたのは間違いありません。ただし、女人禁制自体は信仰ではない。大切なのは、今の時代に禁制を堅持することが、大峯山の信仰を守っていくのに大事かどうかです。これは、信仰にかかわっている宗教者たちが問い直すべき問題だと思います。ジェンダーフリーの人たちが、人権問題として開けろと主張する問題ではありません。そんなことをしたら先人たちに申し訳ない」

妻「家でも議論したこともありますが、私が『開けたら』といって、主人が『開けるわ』という問題でもないんです」

夫は大学卒業後、金峯山寺に勤めた。吉野山にある東南院の宿坊でアルバイトしていた妻と出会ったとき、妻は高校生だった。

夫「かわいらしいなと思って……」

妻「お坊さんの格好していたら、だれも彼も同じに見えますやん。違いは、眼鏡をかけているか、いないかだけ(笑い)。部屋を準備していたときに主人に文句をつけられたことがあって。30歳を超えて結婚してはるんやないかと思ってました。私は専門学校を卒業したあと、金峯山寺の事務をするようになって」

夫「ぼくが一生懸命口説きました」

妻「最初は断ったんですよ。私は軽井沢の教会でウエディングドレスを着て、馬車に乗って結婚するのが夢でした。そしたら、『前代未聞だけど、東南院でウエディングドレスを着させてあげるから』と言われて」

夫「ウエディングドレス買いましてん(笑い)。東南院で赤い毛氈を引いたのは、私たちの結婚式が初めてでした」

ほどなく、夫妻は吉野を離れ、夫の父が建てた綾部の寺に移った。夫は93年夏、護摩堂に120日間こもって護摩を焚き続ける修行「一千座護摩供」に挑んだ。夏場は堂内温度が60度を超える。金峯山寺関係寺院では戦後初の苦行だった。

◆五穀断ち
夫「普段は坊さんかどうかわからんような生活なんで、日常を離れ、大きく期間を定めて修行したいという気持ちが時折、私のなかで生まれるんです」

妻「朝2時に起きて、1日9回護摩焚きをするんですよ。おばあちゃんと私は5時に起きて、精進料理を作りました。寝食も別で、夫婦の会話は『おはよう、こんにちは、おやすみ』くらい。主人はいつもイライラしていて、『余計なことはわずらわしいので聞かすな』『気が散るから子供も外で遊ばすな』と言って。いちばん上のお姉ちゃんはまだ幼稚園で、パパさんを怖がっていたんですよ」

夫「髭がすごく伸びていて……。家族に負担をかけました。最後は五穀(米、麦、大豆、小豆、胡麻)断ちをしたんであまり手はかからなかったと思うけど」

妻「いや、そのほうが大変ですよ。おそば屋さんにそば粉をわけてもらって、それを練ったものをお湯のなかに落として。野菜は苦いですから、主人に内緒で塩もみして、何回も水でさらって、塩気がないようにして渡しました」

夫「五穀と塩を断つと、体が浮くような気がしました。体重が79キロから64キロに落ちて、飛ぶんと違うかなと思った(笑い)。でも、実は修行で得たものはあまりないんです。むしろ修行しても何にもならないとわかったことに意味がありました」

妻「……。あんなに苦労した4カ月間なのに、何も得たものがなかったの」

夫「髭をしばらくそのままにしておこうと思ったんですが、お世話になった和尚から『行で得たものは捨てなさい』と言われ、さっぱり剃りました。そういうのを残しておくと、いつまでも『俺は行をやり遂げたんだ』と肩に力が入ってしまうんです。得たものははなかったけど、捨てたことは良かった」

~『週刊朝日』2005-06-17号(朝日新聞社)「夫婦の情景」 から

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写真はこの記事が掲載されたときの、「週刊朝日」表紙です。なぜかパフィです。若いですねえ・・・。

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コメント

私自身が奥さんやったら
迷惑以外の何ものでもないような・・・。

どうして男の人って周りを巻き込むのかな~と思います。。。。

小さなお子さんたちをかかえて支えた奥様も、行を終えたら行を捨てるというりてんさんも、本当に本当に、すごいなと思います。
二回も千日回峰行を満行して、「何もなかった」とおっしゃっていた、酒井大あじゃりさんを思い出しました。
奥様も、とてもとても大変だったと思います。

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