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「夫婦の情景(全3回)」~田中利典著述集27120

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「夫婦の情景(全3回)」
 ~田中利典著述集27120

今日から3回連続で、「週刊朝日」に掲載されたシリーズ「夫婦の情景」での私達夫婦の回をご紹介します(実は3年前にも一度、BLOGで紹介しました)。これはもう10年以上前の記事で、毎週連載されていたこの「夫婦の情景」というコラムも今はすでに消滅しています。ちなみに私たちの前の週はなんとあの大鵬幸喜ご夫婦でした。巨人・大鵬・卵焼きに並んだ、田中夫婦なのでした。(笑)

知友の文筆家中島史子氏をして「この一冊の本の中で、読むべき価値が一番あったのは、当欄の奥様の最後の一言」と言わしめた掲載でした。期待して、最後までお読み下さい。

***************

「夫婦の情景」
 田中利典(49) ・ 田中周子(39)

(1)

幾重にも重なる山々にこだまする法螺貝の音が、山伏の季節が到来したことを告げている。紀伊半島の霊峰大峯山脈を尾根づたいに行く「大峯奥駆道」は、吉野山に始まる。山伏である夫は、この修行の道を世界文化遺産に登録させた仕掛け人だった。霊域と世俗を行き来する夫と、彼を支える妻に会いに、修験道の聖地・吉野山を訪ねた。

春くれて 人ちりぬめり 吉野山||西行法師がそう詠んだように、奈良の吉野山は観桜の季節が終わり、ひっそりと静まりかえっていた。新緑の山々に、ウグイスの鳴き声が一際大きく響く。遠くから法螺貝の音が近づき、国宝の蔵王堂を擁する修験本宗の総本山・金峯山寺の境内に、山伏の隊列が入ってきた。

妻「私は吉野で生まれ育ちました。4月は花見客で混雑しますが、それが終わると、今度は鈴の音が聞こえてくる。大峯山の山開きは5月から9月です。山伏の姿を見かけると、夏が来たなと……。まさか、自分が山伏と結婚するとは思いもしませんでした」

妻と1歳になったばかりの三男宏宜くんが見守るなかで、護摩焚きが始まった。山伏たちの読経と太鼓の音が徐々にボルテージを上げ、竜が天に昇るように白い煙がうねりながら上昇していく。護摩木の組み方に秘訣があるのか。それとも、加持祈祷が天に通じているのか。

◆奥駆病

夫「お坊さんになっていろんな儀式をしましたけれど、外でやる護摩ほどダイナミックな宗教儀礼はありません。お堂のなかでどんな立派なお経を読んでもよく見えないでしょ。護摩はみんなが四方から取り囲むなかで煙が上がる」

妻「檜葉のパチパチという音がいいですよね」

吉野山から熊野本宮大社(和歌山県本宮町)まで続く修行の道・大峯奥駆道は昨年、ユネスコ世界文化遺産に登録された。夫は登録活動の先頭に立った。毎夏、自ら山伏の衣装をまとい、紀伊半島を背骨のように貫く霊峰大峯山脈を尾根づたいに170キロにわたって七泊八日で歩く奥駆修行をしている。聖地中の聖地である大峯山山上ケ岳(標高一七一九メートル)は今なお、女人禁制が守られている。

妻「朝2時、3時から12時間以上、山道をずっと歩くんですよね。雨が降っても汗をかいても、毎日洗えるわけでもない。干しても生乾きの状態で、臭いし、汚いし、しんどいのにね」

夫「山伏は、山に入ってこそ山伏です。奥駆修行をすると、一度死んで生まれ変わると言われている。大峯山には何もありません。非日常の世界です。都会生活で自分自身を失った人たちが山でヘロヘロになって修行し、自分をリセットして蘇生して帰っていく。二度と行きたくないほど疲れるんですけど、二度と来るかと怒って帰った人ほど、またやって来る」

妻「それを主人たちは『奥駆病』と呼んでいるんですよ。女の私には全然分からない」

夫「現代社会で人々は自分を失っています。会社にも地域にも家族にもどこにも帰属していないでしょ。日本人は、神も仏も人間も自然の営みのなかにあり、自然そのものであるという信仰を持ってきました。自然のなかに入ってヘロヘロになることで、自分は自然の一部であると再認識できるんです」

妻「年末に宏宜を連れて山登りに行ったんですが、主人は『山に行くと血が騒ぐ』と言って、宏宜をだっこしているのにすぐ姿が見えなくなるんですよ。夫婦で山登りしているのに、『体が覚えている』と言ってホイホイ先に行ってしまう」

~『週刊朝日』2005-06-17号(朝日新聞社)「夫婦の情景」 から

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コメント

はい(^^)楽しみに読みます(^^)
お写真も、とてもすてきです(^^)

頭だけ白いのかぶって歩いている人もいますねぇ。
乾かないとお腹が冷えるんですよね^^;;


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