「日本の多様性について」 ・・・田中利典著述集290125
「日本の多様性について」 ・・・田中利典著述集290125
私たちは明治以降、「近代合理主義」に少し洗脳されてきたのではないでしょうか?
面白いことに、日本人は生まれたら宮参りを、お盆やお彼岸には墓参りを、そしてお正月には初詣をします。結婚式に至っては、八割方がキリスト教式か、神式です。その上、クリスマスにはキリスト生誕のお祝いをし、死んだらおおかたの人がお坊さんを呼んで葬式を出します。
...そんなことをしているにも関わらず、「あなたは宗教を信じていますか?」と人から尋ねられると「いえ、私は無宗教です」とか、「私は無信心です」と言うでしょう?
これはおかしいと思いませんか? 本当に無宗教(無信心)の人ならば、そんなことはしません。では、何故、皆このように答えるのでしょうか? 確かに、一神教を信ずる人たちから見れば、「宮参りをし、クリスマスを祝い、法事をするような」無節操な人々は無信心です。けれども、それは一神教を信じる人々の価値観であって、日本人はずっとそういうことをやってきた訳です。
明治維新から約百五十年が経とうとしています。確かに、日本は経済発展を遂げましたが、現在の日本人のこころの依りどころ、もしくはこころの有り様というのは、既に取り去られて久しい気がいたします。梅原猛さんがおっしゃった「明治以前の取り戻すべき感性」があるとすれば、まずそういったことを見直すところから入っていかなければなりません。
私は修験道の立場から発言しますから、修験者として言っていますが、私は別段、「修験道だけが優れている」と思っている訳ではありません。確かに、修験道には、今日申し上げたように、たくさんのキーワードが残されていますが、同様に、神道にも仏教にも数多くのキーワードが残されているのです。ただし、近代合理主義の弊害に気付きがないと、なかなか元々からあった、日本人の多様な精神文化を取り戻すことは叶わないように思います。
「宮参りもするが、墓参りもする」日本人の心情というのは、決して卑下するものではないと思います。一神教を信じる人たちが行っているように、ひとつの価値観で物事を括ろうとしている限り、いつまで経っても争いは絶えません。
日本においては、イスラム教徒とキリスト教徒が喧嘩しているのを、私はついぞ見たことがありません。日本人が全てを受け入れてきたように、「多様なものを持っている」ということが大事です。
「多様性」とは、単に宗教だけを指すのではなく、自然との関わり、人との関わりの中で育まれるものでもあります。「日本には四季があり、豊かな自然環境がある」また「地震や台風など、自然災害が多い国」と言われますが、もし、日本がもう少し北に位置していれば北方文化(大陸・遊牧文化)になったでしょうし、もう少し南に位置すれば南方文化(海洋・漁労文化)になっていったのです。
しかし、日本は、中国や韓国から(儒教や仏教や道教といった高度に体系化された)文化が入ってくる一方、北方及び南方からも、それぞれ独自な文化が入ってくる反面、南東側は地球で一番広い太平洋だけが広がっている・・・・・・すなわち、諸文化の集積地だった訳です。それが、多様な文化を並立して育んできたのです。
更にですが、この限られた日本列島の下には、全地球上の一割にあたる八十いくつかの活火山があります。そういった自然からの驚異もあるが、同時に多様な自然からもたらされる豊かな恩恵もある・・・・・・。われわれの感性は、そういう自然条件と様々な文化が交わった中から育まれてきたものなんですから、そんなに卑下する必要はないんです。
むしろ、こうも言えるのではないでしょうか。「もしかすると、ひとつの価値観で括ろうとすることで衝突が起こり、自然をもの(対象物)として見ることで破壊を進めてきた二十世紀の反省を促す、あるいは提言を与えられるような価値観を日本の歴史・文化は持っているのではないか」と・・・・・・。
ぜひ、宗教者のほうから、今後そういった提言を続けていくことが、大切なのではないか? と思います。
今の日本は、何処に立っているのか? これから何処へ行こうとしているのか? 明治以降、宗教者もある種そういう価値観(近代合理主義)に手を貸し、共に歩んできた面があったと思います。しかし、もう一度明治以前の価値観を見直すことを自らの教えの中に見出すことが、より日本を活性化させることに繋がるのではないかと思います
ー大阪国際宗教同志会:平成17年5月23日、「愛・地球博」長久手会場「地球市民村」において開催/国際シンポジウム基調講演・田中利典『水・森・いのち』より
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私はもう4-500回くらいの講演やシンポに出させていただきました。その中で多くの講演録、シンポ録がありますが、その中でも1,2を競う素晴らしい講演録だと思います。
なお、この講演録は知友の三宅義信先生の手が入ったものです。全文は ↓ ここにあります。ご参考まで・・・。
http://www.relnet.co.jp/expo/event_31riten.htm
*写真はイメージです。
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